うんちがやわらかい、水のような下痢が出た——犬と暮らしていれば、便のトラブルは珍しくありません。その多くは一過性で、与え方を見直すうちに落ち着きます。ただ、その下痢が「様子を見ていいもの」なのか「すぐ病院に行くべきもの」なのか——便を見ただけでは分かりません。だからこそ、まずはこの見分けから知っておきたいところです。
下痢・軟便の主な原因
ひとくちに下痢といっても、背景はさまざまです。日常で起きやすいものから、受診で確かめたいものまで、代表的なものを挙げます。
- 急な食事の変化:フードを切り替えた、新しいおやつをあげた——胃腸が慣れず一時的にゆるくなることがあります
- 食べ過ぎ・拾い食い:量が多い、消化に合わないものを口にした
- ストレス・環境の変化:引っ越し・お留守番・気温の変化など。環境の変化は、おなかの不調(ストレス性大腸炎)の引き金になることがあります
- 体質・食物の不耐性:特定の原材料が合わない
- 感染症・寄生虫:とくに子犬や、他の犬との接触後
- 誤食・中毒:人の食べもの(玉ねぎ・チョコレートなど)や異物
- おなかや全身の病気のサイン:消化器の不調や、ほかの臓器の病気にともなうこともあります
厄介なのは、これらが見た目で区別できないことです。だから判断は「便の色」より「全身の様子」で決めます。続く・くり返す・元気がない——このどれかが当てはまったら、食事の調整はいったん止めて受診してください。
便と全身の様子を確認する
急ぎ度は、便そのものより「全身の様子」で決まります。次の3点を見ておくと、受診するかの判断にも、病院で症状を伝えるときにも役立ちます。
便の色・状態の手がかり
便の色や状態は、おなかの中で何が起きているかのヒントになります。色だけで原因は決まりませんが、気づいた変化は受診時に伝えてください。
| 便の様子 | 一般に考えられること | 目安 |
|---|---|---|
| 黄色っぽい・やわらかい | 消化が速いときなどに見られることがある | 元気があれば経過観察、続くなら相談 |
| 緑っぽい | 草を食べた・腸の動きが速いときなど | 単発で元気なら様子見 |
| 赤い血が混じる・鮮血 | 大腸など下部への刺激のことがある | 量の多少にかかわらず受診を検討(子犬はとくに早めに) |
| 黒くタール状 | 上部消化管からの出血の可能性 | 早めに受診(注意したい便) |
| 白っぽい・脂っぽくテカる | 消化・吸収がうまくいっていないことがある | 続くなら受診時に相談 |
回数と、続いている時間
一度きりで元気もあるのか、何度もくり返しているのか。下痢が24時間以上続く、あるいは数日たってもおさまらず長引くなら、受診を考えるサインです。獣医学では3週間以上続く下痢を「慢性」とし、この場合は食事だけでなく、背景に別の原因が隠れていることが少なくありません。
元気・食欲・水を飲んでいるか
便の状態以上に大切なのが全身の様子です。元気があって水も飲め、食欲も保たれていて、血便や誤食の心当たり・何度もくり返す下痢がないなら、まずは食事の調整で様子を見られます。逆に、ぐったりしている・水も飲まないなら、急いで受診してください。
こんなときは動物病院へ
下痢は食事だけが原因とは限りません。次のどれかが当てはまるときは、フードの見直しで粘らず、動物病院へ行ってください。判断に迷うときも、かかりつけに相談するのがいちばん確実です。
- 吐こうとしているのに吐けない・空えずきをくり返す+お腹が張っている(胃拡張・胃捻転のおそれ。短時間で命に関わるため夜間・休日でも救急へ)
- 嘔吐や下痢が24時間以上続いている
- 大量の血便、または黒くタール状の便が出る
- 何度もくり返し吐く、吐いたものに血が混じる
- 首の皮膚の戻りが遅い・目が落ちくぼむなど、脱水のサインがある
- 元気がなくぐったりしている(とくに子犬・老犬・小型犬)
- 下痢が2〜3週間以上続く、または良くなったり悪くなったりをくり返す
- チョコレート・キシリトール・ぶどう・玉ねぎなど、中毒のおそれがあるものを口にした可能性がある
とくに子犬は、食事が抜けたり下痢が続いたりすると体力を消耗しやすく、超小型犬では低血糖を起こすこともあります。成犬なら様子を見られる場面でも、子犬・老犬・持病のある子は一段早めに動いてください。
上記の受診の目安は、Merck Veterinary Manual や WSAVA(世界小動物獣医師会)のガイドラインなど、獣医学分野の一般的な参考にもとづいています。実際の判断は、その子の年齢や持病によっても変わります。
下痢のときの食事の基本
ここからは、受診の目安に当てはまらず、元気もあって食事の調整で様子を見る場合の話です。
少量を、回数を分けて
一度にたくさん入れると、弱った胃腸の負担になります。いつもの1食を2〜3回に分け、1回の量を減らす——「少量頻回」と呼ばれる進め方です。急性の下痢では、1日のごはんを少量に分けて数回与えるやり方が、獣医栄養の分野で一般的にすすめられています。
絶食は自己判断で長く続けない
かつては半日〜1日の絶食がよく勧められましたが、近年の獣医学的な見解では考え方が変わってきています。長時間(おおむね48時間以上)の絶食は腸の粘膜の回復をかえって遅らせるとされ、早めに少量ずつ与えるほうがよいと考えられるようになっています。とくに子犬・老犬・小型犬は絶食で体調を崩しやすいため、長時間の食事抜きは避け、迷うときは獣医師に相談してください。
消化への負担が少ないものを
脂肪の多い食事は消化に負担がかかり、下痢を悪化させることがあります。急性の下痢では、脂肪控えめで消化のよい(高消化性の)食事が回復を助けるとされています。低脂肪・高消化性の食事で便の戻りが早かったとする研究もありますが、その多くは動物病院で使う療法食での結果であり、一般フードで同じ効果を保証するものではありません。何が合うかはその子の状態しだいなので、続くときは受診時に相談してください。
水分をしっかりとれるように
下痢では水分がどんどん失われます。新鮮な水をいつでも飲めるようにしておいてください。水も飲まない、飲んでもすぐ吐くなら脱水のサイン。様子見ではなく受診です。
元気はあるのですが、軟便が2日ほど続いています。ご飯は抜いたほうがいいですか?
元気があって水も飲めているなら、無理に長く絶食させる必要はありません。1回の量を減らして回数を分け、消化にやさしいものを少しずつ与えてみてください。
ただ、すでに2日続いているので、元気や食欲があっても、ここから24〜48時間で改善しなければ受診の相談を。元気がなくなる・血が混じるといったときは、待たずに病院へ。
具体的に何をどう与えるかは、犬が下痢のときのご飯は?与え方の工夫でさらにくわしく整理しています。
落ち着いたあとのフードの見直し
下痢がくり返す、フードを切り替えるたびにお腹を壊す——そんなときは、日常のフードそのものを見直す価値があります。下痢が落ち着き、元気が戻ってからが前提です。次の視点で選ぶと、消化への負担を抑えやすくなります。
「質がよさそう」という印象ではなく、パッケージの原材料表示と成分表示で確かめられる点を見ます。
| 見るポイント | パッケージで確認できること |
|---|---|
| たんぱく源 | 原材料表示の先頭に肉・魚など動物性たんぱくが来ているか |
| 脂肪の量 | 成分表示の「粗脂肪」の割合(高脂肪は消化の負担になりやすい) |
| 食物繊維 | 繊維源(ビートパルプなど)が原材料に含まれているか |
| 添加物 | 着色料・香料など、嗜好性のためだけの添加物が少ないか |
| 主食の表示 | 「総合栄養食」の表示があるか |
| 切り替えやすさ | 少量から試せるか/7〜10日かけて移行できるか |
切り替えるときは、いまのフードに新しいフードを少しずつ混ぜ、便を見ながら7〜10日ほどかけて割合を増やします(お腹が弱い子は10〜14日とゆっくりめに)。便がゆるくなったら、無理に進めず一段戻してください。ただし、子犬・老犬・持病のある子は、悪化したときに戻して様子を見るより受診を先に。血便・くり返す嘔吐をともなうときも同じです。
新しいフードに変えた翌日から下痢になりました。体に合わないのでしょうか?
急にフードが変わると、合う・合わない以前に、胃腸が慣れず一時的にゆるくなることがよくあります。まずは前のフードの割合を増やして落ち着かせ、7〜10日ほどかけてゆっくり移してみてください。
それでもくり返す、元気がない、血便が出るといったときは、切り替えをやめて受診をおすすめします。
なお、症状が続く犬向けの「療法食」は、原因に応じて獣医師の指導のもとで使うものです。このサイトでは扱っていません。症状が続くときは、自己判断で療法食を選ばず、まず受診してください。
給餌量も見直す
与えすぎは、それ自体がお腹のゆるさにつながります。体重・年齢・避妊去勢の有無から、1日の給餌量の「おおよその目安」をその場で出せます(実際の必要量は活動量・体型・フードのカロリーによっても変わるため、あくまで概算です)。フードを見直すついでに、いまの量が合っているかも確かめてみてください。
- 給餌量の計算はこちら → 給餌量・カロリー計算ツール
よくある質問
下痢と食事について、よく寄せられる疑問をまとめました。いずれも一般的な目安で、その子の状態によって対応は変わります。迷うときは獣医師にご相談ください。
参考にした主な情報源
- Merck Veterinary Manual(消化器疾患の項|慢性腸症、急性出血性下痢症候群など)
- WSAVA(世界小動物獣医師会)グローバル栄養ガイドライン
- Today’s Veterinary Practice ほか、消化器疾患の食事管理に関する獣医学的解説
本記事は一般的な情報であり、診断・治療に代わるものではありません。気になる症状が続くときは、かかりつけの動物病院にご相談ください。
この記事は役に立ちましたか?
ご協力ありがとうございます。いただいた声は改善に役立てます。